木の葉がほとんど落ちた晩秋の林は、恰好のハンティングワールド。
ハンティングといっても動物を猟るわけではない。
枯れ草、枯れ枝のささやかなハントだ。
山の家の裏にある林は、下草の手入れをほとんどしていない放置された場所。
こういう場所には、目的の「獲物」が数多い。
長靴を履いて、空っぽの紙袋と小さなハサミを持って、いざ出陣。
林にはいると、枯れ草が地面を覆っていて、
いちいち足を高く上げないと進めないほどだ。
カサコソ、バリバリ。
歩を進めるたびに、枯れ葉や枯れ枝を踏む乾いた音がする。
胸躍る、秘密の散策。
まわりに人は誰もいない。
聞こえてくるのは小鳥の声だけ。
雑木は葉を落としているので、林床は日溜まりであたたかい。
見上げると、高い木の幹にからみついたアケビの蔓。
乾いたアケビの実がぶら下がっているのが見える。
アケビの蔓は頑丈で見栄えがいいけれど、
太すぎて堅すぎて、扱いが大変。
軟弱ハンターには手に負えない、上級者向きのカテゴリーだ。
アケビはあきらめて、足元に目を移そう。
お、すぐそこに丈の低いオケラの花殻。
オケラの花は、咲いているときも枯れているような風情で実に地味だけれど、
今は本気で乾いている。
リンドウの花も、完全に水分が抜けてカラカラになっていて、美しい。
少し広くなった日当りのいいところには、
野バラの実がたくさん。
ハンターの血が燃える。
はさみを取り出して、少しずつもらう。
鋭いトゲが下向きの鈎状になっているので、
ちょっとさわるとすぐ刺さる。
トゲとの格闘で、痛いいたいと言いながらも夢中でハサミを使っていたら、
指も手のひらも甲もプチ流血。
それでもハントはやめられない。
黄金色のヘクソカズラの実もいい感じだ。
枯れたススキや低木の枝に無軌道に絡み付いている蔓を、
小さな実がこぼれないように、そっと、
でも大胆に引っぱっていく。
おお、これは大漁だ。
だいぶ紙袋が満杯になってきたぞ。
枯れた蔓草についたきれいな実には、とにかく目がないのだ。
サルトリイバラ、スイカズラにツルウメモドキ。
どれもクルリと丸めてリースにするといい感じ。
まずは持って帰って絵を描かなくちゃ。
ふくらんではいるものの、空っぽのように軽い紙袋を下げて、意気揚々と家に帰る。
袋の中は収獲でいっぱい、わたしの胸もいっぱいだ。
土手を降りて戻って来たら、風が下の畑から焚き火の匂いを運んできた。
ああ、これこそ秋の夕暮れの懐かしきしるしだ。
絵・文 : 平野恵理子
1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。イラストレーター、エッセイスト。
山歩きや旅、暮らしについてのイラストとエッセイの作品を多数発表。