気をもたせながら、じわりじわりと暖かくなってくる春。
ふんわりやわらかなイメージにも関わらず、
風が吹き荒れたり気温の乱高下があったりと、
春の陽気は実は荒くれでもあるのだ。
そうそうすんなりと春は来てくれない。
日差しは暖かそうに見えるくせに、風はまだ真冬並みの冷たさなんて日もたびたび。
近くの椿園へ行くときは、毎年要注意だ。
この椿園の花は、三月が見頃。
好天の日を選んで行くので、ついつい
「今日はあったかそう」
と薄着で行くととんでもないことに。
ろくに椿の花も見ずに、早々に引き上げるはめになる。
お花見の頃までは、外で過ごすには冬の装備をする心構えでいた方が賢明だ。
ただ、気紛れな春でも決して裏切らないものがひとつ。
それが、和菓子。
季節に寄り添う和菓子のなかでも、とくに春のお菓子には心が躍る。
かわいらしい形のうぐいす餅は、青黄な粉が春霞のよう。
桃色に黄色のきんとんは、春の花畑だろうか。
草餅を食べれば蓬の香りが口いっぱいに広がって、芽吹きの季節そのものだ。
桜餅を包む塩漬けの葉は、脳髄までしびれるような甘い香り。
色、形、そして香り。どれもみんな春尽くし。
これらのお菓子は、その季節でないとお店に並ばない。
そして、あっという間に季節は移ろい、
お菓子もまた次のラインナップに交代してしまう。
つやつやしたの葉っぱに挟まれた道明寺の椿餅も、
椿の咲くこの季節にしか味わえない。
春のお菓子だけは逃したくない。
スケジュール帳に、お菓子の計画もみっちり書き込んでおかなければ。
まずは「椿園の帰りに椿餅」ね。
こうしてお菓子に夢中になっているうちに、
季節は不安定な早春から爛漫の春たけなわへと移っていることだろう。
その頃のお菓子のことを考えるとまた…。
絵・文 : 平野恵理子
1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。イラストレーター、エッセイスト。
山歩きや旅、暮らしについてのイラストとエッセイの作品を多数発表。