こどもの頃からお正月が好きだった。
元日の朝は目が覚めるとたいてい快晴で、それだけでも高揚した。
昨日までは掃除やお飾り、おせちづくりで家中がてんてこ舞いしていたのに、
あたりも静かで空気が澄んで、どこかゆったりとしている様子。
「お正月になったんだ」と喜んで布団から飛び出していくと、
いつになく両親は和服姿で、母は白い割烹着など着て台所で忙しそうだ。
家の中はさっぱりと清められ、きれいなお花が活けられている。
いつもは朝どんどん会社へ行く父も、のんびり分厚い新聞などめくっている。
これではこどもがハイになっても仕方がない。
お重や盃をお膳に運ぶのを手伝いながら、漂ってくるのは母の作るお雑煮の匂い。
おすましに鶏肉と牛蒡の香りが
「ああ、本当にお正月がきたんだな」
と思わせてくれる。感激ひとしお。
「お餅いくつ?」というやりとりもまた、お正月ならでは。
お雑煮に使うもみ海苔と鰹節を、いそいそと手伝って豆鉢に盛った。
お雑煮は大好物なのに、今もなんとなく普段作らずにいるのは、
この感激をお正月にとっておきたいという思いからかもしれない。
そうそうみだりに年中お雑煮を食べてはならぬ。などと思ったりして。
お膳にすべてが並んだら、家族四人揃って盃を掲げ、
「あけましておめでとうございます」。
この瞬間、わたくしの「お正月ハイ」は最高潮に達する。
お正月って本当にいいな。
あとはゆっくりとおせちを一品ずつ食べ進む。
時はたって、今は一人のお正月。
それでも小さな鏡餅を飾り、おせちを作ってお雑煮を祝う。
二日には書き初めも。初夢のために宝船の絵も描くぞ。
ちょっと寂しくはあるけれど、いままでのお正月で味わった、
幸福感のおつりがたっぷりあるから、なんのなんの大丈夫なのだ。
絵・文 : 平野恵理子
1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。イラストレーター、エッセイスト。
山歩きや旅、暮らしについてのイラストとエッセイの作品を多数発表。