稲坂良弘 Yoshihiro Inasaka
銀座香十前代表、香の語り部、劇作家
銀座には大人の香りがある。
歴史が醸す文化の香りと、時代の先端の今の匂いがともに漂う。
それは嗅覚が捉える物性ではなく、肌で感じ心で聞きとる香りである。
つまり「聞香(もんこう)」のような。平安王朝の『源氏物語』はもとより香りは情報であり、そこから物語が紡がれた。
一千年後の今、香りは更に、こころ豊かな暮らしの潤いであり、空間を静かに晴れやかに変え、
「やすらぎ」と「ときめき」をもたらし活力となる。
目には見えないこの力から、日本は世界が感嘆するものを幾時代にわたり創造してきた。
美と精神の芸道「香道」も日本の創造であり、世界から熱いまなざしが注がれる。
今、銀座の香間「香十庵」では、中国、フランス、イギリス、スイスと各国から伝統の香席に集う。
本物に出会える場と知られる。
こういう体験(コト)ふくめて日本文化そのものが、銀座で価値商品となってゆく。
私事だが、日本橋育ちの子どもの頃、京橋から先の銀座には何か別世界を感じた。
いつしか憧れとなり恐れを知らない青い頃、仲間と立ち上げた演劇制作事務所も銀座四丁目だった。
そのすぐ傍に、当時まだ20年目の若い「大香」がいたのだと、後に知る。
大香は小売業態ではない。
が、銀座の中心の一点に在り続け、時代への発信を続けてきた銀座ブランドである。
私も長年の銀座定点観察者のひとりだが、言えることは「銀座は価値創造の舞台であり続けている」と。
そして、この舞台に大香はいる。
今年は明治維新150年。
文明開化の銀座は、新橋停車場から日本橋まで真直ぐに街路を鉄道馬車が走り、表通りは煉瓦づくりの西洋型、
一筋裏は町家、小店、職人の手技の場。
旧いものと新しいものが表裏一体の銀座は、今も最先端のすき間に昭和の痕跡を見いだせる。
この奥深さも創造の源泉のひとつである。
銀座の新しい匂いは、万華鏡のように変化してゆく。
その中心に立つ大香は、今という時代の大いなる香り満ちるライフスタイルへの提案者であり、
潤いある快適な暮らしの水先案内人のようだ。
大香の「香(こう)」は「幸(こう)」であり、時代が求める物に最高の形で応えるという銀座のDNAを受け継ぎ、
今美しく羽化し、飛翔しようとしている。
まずは100年の第一指標へと、大香は翔ぶ。
文 : 稲坂良弘(いなさか・よしひろ)/ 株式会社香十前代表
早稲田大学を卒業後、劇作家の道へ。劇団文学座を経て、脚本家、CM演出家としても活躍。40代より香文化の専門家へと転身。各メディアから「香の伝道師」と呼ばれ、香に関する講座等でも多くのファンを持つ。